日本銀行の役割のひとつとして、紙幣の発行があります。日本銀行が唯一の発券銀行だとしても、いつでもどれだけでもお札を発行できるということはありません。当然、そこには厳格なルールが定められています。
ひと昔前であれば、お金は「兌換紙幣」と呼ばれるものであり、「お金は金(ゴールド)交換できる」という信用を得ていました。このように、金(ゴールド)の量がお金の信用を担保する仕組みのことを「金本位制」といいます。金(ゴールド)の保有量に比例して紙幣を発行することができるというシンプルな体制でした。
しかし、金本位制ではその国の中央銀行が保有する金の量でしか紙幣を発行できないため、世界中の政府にとって経済や市場をコントロールするために不都合な面が多く、金融政策に限界があるとして、当時の先進諸国は金本位制をやめてしましました。
それ以降、中央銀行が保有する金の量に関係なく紙幣を発行できるようになりました。これが、「金本位制からの離脱」という歴史的な出来事であり、紙幣は「兌換紙幣」ではなく「不換紙幣」となりました。つまり、金(ゴールド)とは交換できない紙幣の誕生です。
金本位制でなくなった瞬間、それまでの紙幣はただの紙切れになりました。しかし、「これはお金だ」という信用・信頼、言い換えれば「共同幻想」があれば、それを「お金」として疑う人はいません。
商品券でも、ポイントカードでも、電子マネーから暗号資産に至るまで、「お金」の歴史から見ても、みんなが「これはお金だ」と思い込んでさえいれば、相応の価値として成立し、通用し続けるのです。
金本位制でなくなった現代では、何を基準に紙幣の発行を行っているのでしょうか。それは、「国債」です。国債というのは一言でいうと「国の借金」に他なりません。現在の日本銀行は、政府の発行する「発行済み国債」の量によって紙幣を発行する量を決定しています。
毎年国会で予算案が通るたび、財源を上回る部分の金額が国債として発行され、それを一般の銀行や個人が購入しています。中央銀行はその国債を買い上げることで、その額の紙幣を発行しています。
第二次世界大戦前までは、国が借金をするために国債を発行すると、日銀がそれを直接買い取り、その場で政府にお金を渡すことができました。政府はそのお金を戦費として充てていたわけですが、それが常態化すると何が起きるかというと、必ずインフレが発生します。
お金を刷りすぎて、お金の価値そのものが下がってしまうことを言います。実際、1930年代に日本はとんでもないインフレを経験しています。その反省から、戦後は政府が発行した国債を日銀が直接引き受けるは出来なくなっています。
現在の日銀は、政府が発行した国債を購入した各銀行から買い上げる形で紙幣を発行し、各銀行にお金を渡すようにしています。こうすることで政府が際限なく国債を発行することを抑制するだけでなく、お金の流れの調整弁としての役割も担っているのです。