#120 Why Japanese people !!

現在、最新のテクノロジーが集結している場所はどこでしょうか。中国でも、アメリカでも、もちろん日本でもありません。実は、アフリカなのです。アフリカはノンバンク(個人の銀行口座を持たない)の人々が多く、自国通貨の信用も低いため、暗号資産を含め「電子決済」がものすごいスピードで普及しています。

 

また、荷物をドローンで届けるサービスなど、日本ではいつ始まるのか分からない便利な技術が次々と実用化されているのです。いったいなぜなのか・・・答えは、インフラが整っていない国ほど新しい技術を取り入れようとするときに、既存インフラにおける利権の問題や法整備など、時間のかかる手順を踏むことなく取り込むことができる点にあります。

 

「リープフロッグ現象」と呼ばれるもので、略せば「カエル跳び」ですね。既存社会のインフラが整備されていない新興国において、新しい技術やサービスが、先進国が歩んできた技術の進展を飛び越えて急速に広まっていくことと定義されます。

 

コロナ禍により、私たちの日常は大きく変化しました。一方、インフラが整いすぎていて在宅勤務やリモート会議など無縁だった日本が、世界と比べていかに遅れているのかが周知の事実となりました。

 

2021年4月、行政改革担当大臣から各省庁に対して、「FAX廃止」の通達が出たことが話題になりました。信じたくはありませんが、現場では「FAXは必要だ」という抵抗が起きていたとかいないとか…。

 

アメリカにある博物館には展示物として「FAX」が置かれているようです。昔はこのような通信手段がありました・・・と。昨年までそのような手段を使って、国の中枢機関が重要なやりとりをしていたと思うと驚きです。

 

なぜこのようなことが起きるのかというと、日本は「できない人に合わせる」傾向が強いからです。中国のように「できない方が悪い」と割り切って強制的にDX化を進めていくのも考えものですが、「できない人を切り捨てるな!」というこれまでの風潮のままでは、なかなか先に進めないのも納得できます。

 

今後も、デジタルが苦手な人は苦手なままなので、日本におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は世界と比べて周回遅れでしか進んでいかないかもしれません。

#119 食肉消費量の増加

日本の人口減少については周知の事実ですが、世界規模では人口の増加は継続していきます。2020年に78億人を記録した世界人口は、2040年にも90億人に達する見込みです。

 

そこで問題となるのが食料です。途上国が経済成長すると、食生活が変化します。どうなるのかというと、結論は「肉を食べる」です。世界の食肉消費量は、2020年から2030年までに約70%、2030年から2050年の間にはそこから更に20%以上拡大すると予測されています。

 

しかし、すでに地球上にある利用可能な土地の25%はすでに家畜用の牧草地であり、牛肉1kgの生産に必要な穀物は約8kgともいわれます。子牛から育てて食肉になるまでには2~3年かかるため、供給の拡大にも限界があります。

 

そういったなか食品をテクノロジーで開発する分野が「フードテック」と呼ばれており、開発が進んでいるのが「代替肉」と「培養肉」です。現在、欧米では肉を食べることは地球環境や健康に悪影響を与えるという考え方が浸透してきており、罪悪感を抱かせないものとして市場規模を拡大しているのが「代替肉」です。

 

とはいえ、結局は本当の肉でないと満足できないといった声もあり、「培養肉」の分野が注目を集めています。その名の通り、肉の細胞を培養して作られる食肉で、動物の幹細胞を取り出して増殖させます。細胞を少しだけ採取することで培養できるので、動物を大量に飼育することも、屠畜する必要もなくなります。

 

現在の技術でも培養肉であれば年間に数十トンの量産が可能だといいます。しかし、培養肉はまだ実証実験の段階であり、店頭には並んでいません。今年の3月、日清食品ホールディングスが「食べられる培養肉」の作製に日本で初めて成功したことが話題になりました。

 

牛から採取した筋肉細胞を、コラーゲンを混ぜた溶液中で培養し、長さ1cm程度のサイコロステーキ状の筋組織をつくることに成功しています。今後は、脂肪も一緒に培養して大きくする技術などを開発し、本物の肉に近付けていく方針だといいます。

 

「謎肉ヌードル」が売れているのですから、そのうち「培養肉ヌードル」が発売されるかもしれませんね。私は食べてみたいです(笑)

 

2040年には世界の食肉市場は200兆円規模にも達する見込みがあり、そのうち35%を培養肉が占めるとの見通しもあります。

 

消費者に受け入れられるかというところで課題は残りますが、培養肉が環境負荷の軽減や食糧危機の解決に不可欠だとすれば、そのうち抵抗なく食べているのかもしれません。

 

世界人口の急激な増加は確実に訪れる未来であり、私たちを取り巻く状況を考えれば、テクノロジーによるこういった取り組みの数々は、必ず普及していくと考えられます。

#118 私たちの進むべき道

それでも、これまで見てきたテクノロジーの進化は「持続可能な世界の実現へ向けた、人類の絶え間ない前進」と捉えることができます。

 

この流れは一貫して継続しており、多くのモノやサービスのコストがゼロに近付いています。#96でも取り上げている「非収益化」が好循環を引き起こしている事実も、疑う余地がありません。

 

需要を満たせるだけの安価なエネルギーがあれば、きれいな水もふんだんに手に入ります。自動運転のEVの普及は環境にやさしい交通手段の選択肢を増やし、3Dプリンティング技術の向上でこれまでより安くモノや住居を手に入れられるようにもなります。

 

また、IoT・5G・AI・AR・VRの融合により、世界中のあらゆる地域、社会的・経済的地位にかかわらず、低いコストで教育・医療を受けられるようになります。貧富の差は拡大を続けるなか、テクノロジーが世界の直面する問題を解決する手段をもたらすという考え方はあまりにも楽観的であると指摘されることも事実です。

 

しかし2021年時点、さまざまなツールやテクノロジーへのアクセスの改善により、極度の貧困が減少に転じていることが明らかになりました。やるべきことはまだまだありますが、飢餓による死者数の減少や健康寿命の延長など複数の指標が上向いており、「世界はひそかに良くなっている」と評されています。

 

同時に、再生可能エネルギーのコストは急激に低下し、インターネット接続と安価で高性能なデバイスは最貧層でも入手しやすい状況に改善しています。今日、タンザニアの子供はAIを使った教育に加えて、グーグルやバイドゥを通じて世界中の情報にアクセスできます。

 

まもなく帯域幅が爆発的に拡大することから、さまざまなクラウドベースのアプリを通じて、教育からエンターテインメントまで、ありとあらゆるサービスを無償で享受できるようになるでしょう。

 

最貧国で生活する子供たちにタブレットを渡したところ、数日で使い方をマスターし、2週間後には友達同士でABCの歌を歌えるまでになったといいます。これは教育水準の向上や、健康と福祉の大幅な改善をテクノロジーがもたらしていると評価することもできます。

 

私たちが、これからの10年で起ころうとしている100年分の技術革新に対応するのは容易なことではありません。常に、そして継続的に学び続けることが重要になってくるでしょう。どんなテクノロジーが存在し、そのテクノロジーによって何が可能なのか、正しい情報を常時アップデートしていけるように意識しておく必要がありそうですね。

 

迫りくる変化から目を逸らさず、柔軟に対応していきましょう。

#117 バーチャルの世界へようこそ

新たな人類の大移動は、電源ひとつで始まるかもしれません。これまでに経験したことのない集団移動。当り前の現実、日常から「バーチャルの現実」への移動を意味しています。

 

皮肉なことに、コロナ禍が加速したとも言えるVR・ARの加速度的な進歩。いまや会議や面接はリモートが当たり前になり、まもなく自分のアバターが、勤める会社そっくりの空間に出勤し、現実世界と遜色ない景色で仕事を行っている日常が実現するかもしれません。

 

すでに準備は整っており、世界全体でオンラインゲームに費やされる時間は、週に30億時間。デジタルメディアの使用時間は1日11時間にも達しており、「インターネットゲーム障害」なるメンタルヘルス疾患も認められつつあります。2005年には韓国人男性がオンラインゲームを連続50時間やり続けて死亡したというニュースが報じられました。

 

日本には「引きこもり」と呼ばれる、失われた世代、見えない若者、現実世界には姿を見せず、ネットの世界に生きているティーンエージャーが100万人いるといわれています。こうした人々は、これからの大移動のパイオニアとなり、バーチャルの世界への冒険に乗り出す足がかりを築く存在として、その大移動を加速させるでしょう。

 

この新たな大移動のトリガーは心理的要因、つまり私たちの脳内で起きていることになります。オンラインに限らず、ゲームには中毒性があります。原因はドーパミンと呼ばれる興奮剤、つまり快感を生み出す脳内ドラッグです。ドーパミンは没頭・興奮・探求心、その意味を理解したいという欲求と結びついており、リスクを取るとき、報酬が期待されるとき、あるいは目新しいものに出会うことで分泌されます。

 

ひとたび報酬ループが確立されると、つまり、ある活動とドーパミンの分泌に繋がりがあると脳が認識すると、もっとその効果を感じたいということ以外何も考えられなくなります。中毒性の高い麻薬といえば、その主な効果は脳内をドーパミンで一杯にすることにあります。

 

これはゲームだけの話ではなく、スマホに好きな人からメッセージが届いたときに内容を見たくてたまらなくなるのもドーパミンの作用です。インターネットの主な用途のほとんどはドーパミンを分泌させます。その究極系がVRであるともいわれています。

 

ドーパミンは脳の報酬系神経伝達物質のひとつに過ぎず、他にもノルアドレナリン・エンドルフィン・セロトニン・アナンドアミド・オキシトシンなど、いずれも強い快感を引き起こす物質になります。没入型のVRヘッドセットは、ドーパミンだけでなくすべての物質に作用することが確認されており、心地よさを感じさせる神経化学物質をすべてミックスした強力なドラッグを発生させるのです。

  

VRは恐ろしいと思った方も多いかもしれません。しかし、そこに金銭欲・征服欲・性欲・充実感といった人間の本能に対して主たる動機づけが組み合わされたとき、VRの魅力は一段と高まります。その結果、バーチャルの世界への意識の脱出という大移動が起きるかも知れません。いえ、すでに始まっているのです。

  

「世にも奇妙な物語」みたいになってしまいましたが、着実に進んでいる仮想現実世界への人類の大移動と自分自身が住む世界の選択の自由。

皆さんは現実世界とバーチャルな世界、どちらの住民になりたいでしょうか。

#116 問題解決技術の向上

◻️サンゴ礁の再生

海の森林と呼ばれるサンゴ礁、つまりダメージを受けた海の健康を取り戻すためには弱ったサンゴ礁を治療しなければならないということです。サンゴ礁再生技術はいくつもありますが、現在開発中のテクノロジーのなかに、組織工学を応用して100年分のサンゴ礁の成長をわずか2年足らずで再現する方法があります。

 

通常、サンゴは25年から100年かけて成長して増殖するサイクルがありますが、その手法によれば2年目からサンゴ礁が増殖を始めるというものです。世界で初めてサンゴ礁を急速に再生させる方法が見つかったのです。実現すれば、絶滅の危機に瀕している多くの海洋種の生態系を維持することが可能になります。

 

◻️水産養殖技術

漁業による乱獲は、海洋生物減少の主要因のひとつです。漁獲量の管理を徹底することが重要になりますが、現在30%以上の漁業が限界を超えた乱獲の状態にあると言われています。漁業資源(海洋生物)を増やすことができれば、管理する必要もなくなるのではないか。

 

つまり、#109で取り上げた幹細胞からステーキをつくるための組織光学技術は、大型肉食魚のシイラやクロマグロをつくるのにも応用できるのです。まさにそれを目指している会社は複数あり、養殖の鮭から研究所育ちのエビやイカなど、さまざまなシーフードが私たちの食卓にのぼる日も近いのかもしれません。

 

◻️スマート農業

植物や動物が育ち、のびのびと暮らしてもらうには相当の敷地が必要になります。地上や海中に、動植物のための広大な生息地を確保する必要があります。現在、地球上の15%が人間の手の及ばない自然保護区になっていますが、専門家の多くは地球の半分を動植物に明け渡す必要があると考えています。

 

陸地の約40%、淡水資源の75%が農業(11%が農作物、残りは牧畜と酪農)に使われているという現実から、森林の再生と回復のためには早急に農業改革を実現しなければいけません。

 

しかし、現在では農業に使用される陸地の総面積は縮小に転じています。耕作放棄地が記録的ペースで増えているのに加え、さまざまなイノベーションによる培養肉・垂直農法・組織光学作物の栽培等により、これまでよりはるかに少ない敷地面積で、はるかに多くの食料を生産できるようになっているのです。この余った土地を自然に返すことができれば、陸地における生態系の維持継続も実現できるかもしれません。

 

上記のように、問題を解決するのに必要なテクノロジーはすでに存在し、それらの融合により今後も改良が重ねられるのは確実です。一見バラバラに進歩しているテクノロジーが融合し、問題の進行を超える速度で解決策を見出していく。

 

人類は地球に大きな負担を掛けているという現実があるのと同時に、共存し、協働することで持続可能な経済社会への転換を実現できるまでに進化しているともいえるのです。

#115 生態系の恩恵

気候変動・森林破壊・環境汚染・魚の乱獲などにより、深刻な生物多様性の危機が生じています。国連の発表によると、1日に200種が絶滅することもあるといい、昆虫種の40%で個体数が減少し続けています。霊長類であるサルやチンパンジーも、いまや絶滅の危機に瀕しており、2100年までには大型哺乳類の50%が絶滅すると予測されています。

 

海洋の状況も深刻です。世界の種の25%が生息するサンゴ礁の75%はすでに危険な状態にあるといいます。5億人以上の生活を支え、大気中の酸素の3分の2を生み出しているサンゴ礁の90%が2050年までに消滅する。2100年までには海洋生物の50%が消えるとも言われています。

 

生物多様性は生態系とその恩恵を受ける私たちの生活にとって健全性の基盤となるものです。地球が人類に与えてくれる、私たちが生み出すことのできない、酸素の生成・植物の受粉・洪水の防御・淡水・気候の安定など、24の生態系サービスのうち15項目が悪化し、長期的には持続不可能になるとされています。

 

ミレニアム生態系評価では、この傾向は今後さらに深刻になる可能性を指摘する一方、改善のためには国際社会が大幅な政策や制度の変更に踏み切る必要性があると警告しています。

 

国連が掲げるSDGsの取り組みや、企業がCSRの一環として進めるESGの取り組みも、持続可能性を高めるため世界が一丸となって取り組んでいるものであり、そこに注がれる膨大な資金が、この悪い流れを変えてくれるかもしれません。

 

ESG投資というキーワードにもアンテナを張っておきましょう。

次回は、実際に行われようとしている取り組みをいくつか紹介してみたいと思います。

#114 EV開発競争

◻️EV:Electric Vehicle の略で、日本語で電気自動車のことです。モーターで駆動する自動車のことを指し、車内に蓄電池を搭載しており外部からの電力供給で充電してその電力で走行します。

 

エネルギー問題の大きな砦のひとつが「輸送手段」にあります。国によって差はありますが、自動車やトラックのCO2排出量が全体の20%を占めており、そこに航空機・列車・船舶等を加えると温室効果ガス排出量の30%にも上ると言われています。世界全体では20%となります。

 

EVの普及により環境への負荷軽減は見込めますが、その移行へはまだまだ時間がかかり、地球温暖化による気温の上昇を2℃以下にとどめるには間に合わないという見方が大勢です。

 

各国の政府は将来的にガソリンやディーゼルエンジン車の製造販売を禁止すると発表し、自動車産業全体に圧力をかけています。ドイツは2030年までに内燃エンジンと決別すると発表、ノルウェーは2025年に内燃エンジンを禁止する方針を打ち出しました。ノルウェー国民もそれを全面的に支持し、2017年時点で新車購入台数の52%をEVが占めました。

 

「意志あるところに道は開ける」という格言もあるとおり、市場の大きな変化を感じ取った大手自動車メーカーはEV開発へ舵を切り、遅れをとらないよう投資を加速しています。

 

課題はやはりバッテリー(蓄電池)のところにあり、1回の充電にかかる時間と航続距離の改善に頭を悩ませています。現時点で注目を集めるのが超高速充電装置の開発、つまり次世代個体電池の開発と普及になります。

 

2025年にはEVが広範に普及するための条件とされる航続距離800kmを実現できると言われており、残る課題は「充電時間」です。それも、テクノロジーの融合と市場からの圧力にも後押しされ、大幅な高速化が進んでいます。

 

新しい素材を活用したリチウムイオン「フラッシュ電池」は、高速充電が可能なだけでなく、放電速度が乾電池並みに遅く、5分充電するだけで約480kmを走行するなど、ガソリンスタンドで給油する時間とほぼ変わりません。

 

また、緊急時には充電されたEVが非常用電源として活躍する可能性も指摘されており、開発の加速にも拍車がかかります。将来的にはEVが全国電力ネットワークのノードとなり、異常気象や災害発生時のモバイルなバックアップ電源としての役割を果たす、そんな未来が訪れるかもしれません。

#113 フロー電池

リチウムイオン電池や全固体電池に代わるもうひとつの選択肢となるのがフロー電池です。リチウムイオン電池は金属のような個体にエネルギーを蓄えるのに対し、フロー電池は2種類の化学物質を溶解した液体に蓄えることができる化学電池です。

 

リチウムは乾燥地域で産出される希少資源のひとつで、1トン採掘するのに50万トンもの水が必要になるため、それを安価で潤沢な物質に置き換えるメリットは非常に大きなインパクトといえます。

 

リチウムイオン電池は軽量で携帯性か高いので、モバイル・テクノロジーには最適ですが、耐久性の問題があります。一般的なリチウムイオン電池が耐えられる充電サイクルは約1,000回。フロー電池は大型でかさばるのが現在の課題ですが、5,000~10,000回の充電に耐えるため、何十年も交換なしに使えるといったメリットがあり、大規模なデータセンターや小規模発電網(マイクログリッド)に最適とされます。

 

コスト面でも、現在ではリチウムイオン電池に比べて高価ですが、まもなく大幅に安くなることが見込まれており、同じ性能のリチウムイオン電池と比べて20%程度のコストで製造可能な硫酸水溶液フロー電池の開発も進められています。

 

このたったひとつの画期的発明が実現すれば、世界の蓄電ニーズの90%を満たせるという試算もあります。地球環境の改善に繋がる新しい技術の開発は、人類共通の課題を解決する希望になっているのです。

#112 蓄電の未来

再生可能エネルギーをスケール化するためには蓄電技術の向上が不可欠になります。緊急時に備えるため、安心して電気を使うため、太陽が照らない、風が吹かない状況に備えるためにも蓄電は重要な役割を担います。しかし、必要とされる容量を賄うことは容易ではありません。

 

アメリカのカリフォルニア州では2045年までに必要な電力を100%再生可能エネルギーで供給することを目標として掲げており、それを達成するためには3,630万MW/hの蓄電能力が必要になるといいます。

 

現在の蓄電能力は約20万MW/hとなっており、目標達成率は約0.5%。当初からこの問題はリチウムイオン電池で解決しようとしています。その技術自体もテクノロジーの進歩によって価格の下落が続いており、1990年から2010年までの20年間で90%の下落、それ以降、現在までにはさらに80%以上の下落を実現しました。性能も10倍以上になったといいます。

 

しかし、需要に見合うだけの生産能力の確保が常に問題となってきました。そこで登場したのが世界のリチウムイオン電池の生産量を倍増させようというテスラ社の「ギガファクトリー」です。リチウムイオン電池の生産がスケール化されたのはこれが初めてで、イーロン・マスクCEOの試算ではギガファクトリーを1,000カ所に建設すれば、地球上で必要とされるエネルギーのすべてを貯蔵できるとされます。

 

さらにテスラ社は2018年に太陽光・風力発電施設の改良プロジェクトで史上最大のエネルギー貯蔵施設(100MW/h)を100日足らずで建設したことでも有名です。重要な点は、太陽光・風力・バッテリーをを完全に統合し、化石燃料を使用した施設よりも低い発電コストを実現したこと。しかもそれをひと夏の間に建設したことにあります。

 

他の自動車メーカーも追随して蓄電装置の開発と生産能力の倍化に資金を投じています。すでにリチウムイオン電池さえ選択肢のひとつに過ぎないほど、新しい技術の開発が進んでいるのです。

#111 タダの資源をどれだけ活かせるか

材料科学の融合により、ソーラーパネルの発電効率は激的に向上しています。「量子ドット」と呼ばれる名のスケールの半導体の登場により、現在21%程度のエネルギー変換効率が66%にまで高まろうとしているのです。

 

テクノロジーにより太陽光発電の性能が高まっているだけでなく、価格も低下しています。太陽光パネルのコストの65%はパネル以外の土地・メンテナンス・太陽光の追跡機能などが占めています。そこで重要になるのが太陽光発電と風力発電の融合になります。

 

風は太陽が照っていないときに吹く傾向があり、その逆もしかりなので、太陽と風力による発電をひとつの送電網に統合することにより相乗効果が期待できるのです。最も重要なのは太陽にしても風にしても「タダ」で潤沢にあり、自由に利用できるということ。

 

約90分毎に地球に降り注ぐ太陽エネルギーは、人類が1年間に消費するエネルギーに等しいといいます。風力も同様です。それをしっかりと捉えることができれば、私たちが消費するエネルギーの大半は確保できるのではないでしょうか。

 

ことエネルギーに関しては、問題視されるべきは資源の不足ではなく利用可能性の追求とその実現にあると思います。あらゆる技術が進歩しているなか、発電においては従来通り化石燃料を燃やしたり、核燃料を反応させて水を加熱することで、その蒸気圧力によりタービンを回転させて電磁誘導で発生した電気を取り出すという方法からあまり変わってないように感じます。

 

さまざまな利権や国家間の駆け引きもあるのでしょうが、脱炭素や原子力発電の縮小を実現するためにも、発電のあり方について、さらに技術の進歩が加速することを願いたいものです。