#99 5G・気球・衛星①

研究者がネットワークの進化を語るとき、キーワードとなるのが「ジェネレーション」(世代)の頭文字である「G」です。最初の電話ネットワークが広がり始めた1940年が「0G」、つまり潜行フェーズ。そこから「1G」に到達するまでに40年かかりました。1Gは1980年代に登場した初の携帯電話ネットワークであり、それによりネットワークは潜行から破壊フェーズへ移行することになります。

 

インターネットが登場した1990年代には「2G」がサービスを開始。しかし、その期間は思いのほか短いものでした。10年後には「3G」によって全く新しいサービスと、新しい加速の時代が到来したのです。帯域幅のコストは年率35%という驚異的なペースで下落していき、2010年にはスマートフォン・モバイルバンキング・eコマースにより「4G」ネットワークが浸透していきました。

 

しかし、今後は「5G」がこれまでに最も安い価格で、これまでより100倍のスピードを提供し、すべてを変えていくことになるかもしれません。3Gでは高解像度の映画1本をダウンロードするのに45分かかりました。4Gではそれが21秒に縮まり、5Gでは数秒で完了します。

 

こうした携帯電話のネットワークが地球を覆いつくそうとしている一方で、はるか上空の領域で勢力を拡大しているものもあります。10年前にGoogleのなかでもとりわけ異端的事業に取り組む「グーグルX」として始まったプロジェクトで、地上の携帯電話用基地局の代わりに成層圏に打ち上げた熱気球を使うというアイデア、「プロジェクト・ルーン」です。それも既に現実となっているのです。

 

地表から約20km上空を漂うのに十分な軽さと耐久性を兼ね備えた気球は、15m×12mの大きさで、地上の携帯電話ユーザーに「4G-LTE」接続を提供します。ひとつの気球で約5,000平方キロメートルのエリアをカバーできるので、Googleはこれを数千個打ち上げることで無線サービスを受けられない人々をネットに繋げ、地球上の誰もがどこにいてもネットを利用できるようにすることを目的としています。

#98 ネットワーク

ネットワークとは、「輸送手段」と言い換えることができます。財やサービスはもちろんのこと、重要な情報やイノベーションさえもA地点からB地点へ運ぶことができます。では世界最古のネットワークはというと、1万年以上前の石器時代、牛車の「わだち」という形で生まれた人類初の「道」になります。

 

この「道」こそが驚異の発明となり、アイデアやイノベーションの交換が、人間が荒野を1歩ずつ移動する速度に縛られることがなくなったのです。つまり、突如としてモノや情報が、当時としては時速約5km(牛車)というとてつもないスピードで拡散するようになりました。

 

それからの1万2000年間で牛が馬に代わり、洋上の移動では帆船が発明された程度で、情報の伝達速度はほほ変化がありませんでした。それが変わったのが1844年、モールスが電信技術により「神のなせる業」という一文を送信したことに始まります。これがネットワーク時代の誕生を告げるものになりました。

 

その後、1876年にアレクサンダー・グラハム・ベルが世界初の電話によってネットワークに革命を起こしました。電信から電話に変わってもデータ送信の速度は変わりませんでしたが、送信される情報の量と質は劇的に変化しました。

 

電話は電信と違い、勉強してトンツー信号を学ぶ必要もなく、受話器を取ってダイヤルを回すだけでよい、ユーザー・フレンドリーなインターフェースでもあったのです。それによりネットワークの進歩は潜行フェーズを抜け、破壊フェーズへと移行しました。

 

1919年、アメリカにおける固定電話の普及率は10%にも満たず、電話料金が普及の妨げとなっていました。しかし、性能の向上とコストの激減に伴い、ここ50年間でネットワークは破壊フェーズを脱し、世界中に広がりました。

 

現在では地球上のあらゆる場所にインターネット・衛星ネットワークが張り巡らされています。2010年時点で世界人口の約25%がネットに繋り、2017年には世界人口の50%にまで達しました。これからの5年内で全人類がインターネット接続の恩恵を享受すると言われています。

 

つまり、地球全体・全人類がネットワークで繋がる日がもうすぐそこまで近付いているということなのです。

#97 5段階のフェーズ

新たに開発されたテクノロジーが私たちの日常に浸透し、誰もが当たり前に恩恵を受けるようになるまでには多くのステージを経由しています。あるテクノロジーがデジタル化、「1」か「0」かのバイナリコードにできるようになると、ムーアの法則に従った成長の加速が始まります。まもなく、ローズの法則に則ったさらなる成長の、加速の加速が始まろうとしているのです。

 

1.潜行フェーズ

まず、新たに登場したテクノロジーは、大きな注目を集めます。初期の成長は緩やかであり、世の中の期待に応えられる状態ではありません。例えば、ビットコインが登場したばかりの頃、当時は開発者や超オタクの新しいおもちゃ、あるいは違法ドラッグをネットで買うための手段としか思われていませんでした。それがいまや金融市場を根本から変えてしまうほどの勢力となっています。

 

2.破壊フェーズ

そのテクノロジーが本当の意味で世界に影響を始めた時がこのステージにあたります。既存の製品、サービス、市場、産業を侵食・破壊していくのが予測される状態です。まさにこのステージにあるテクノロジーが3Dプリンティングで、それだけで1,000兆円規模の製造業そのものをおびやかそうとしています。

 

3.非収益化フェーズ

かつては製品やサービスにかかっていたコストが、そっくり消えてしまうステージです。振り返ってみると、かつて写真は高価なものでした。フィルムや現像にもお金がかかるので、限られた枚数しか撮影しませんでした。しかし、写真がデジタル化した結果、そのコストやビジネスモデルはほぼ消滅しました。

 

4.非物質化フェーズ

ゼロではないにしても、最近まであったものが無ければ無くてよくなるステージ。非物質化とは、製品そのものが消えることをいいます。カメラ・ステレオ・テレビ・ビデオ・計算機・紙媒体・対面のマッチングビジネスなど、かつては独立した製品・サービスとして存在していたものが、スマートフォンに標準装備されています。ウィキペディアによって百科事典が消え、iTunesによってCDショップが消滅したのも非物質化の一例です。

 

5.大衆化フェーズ

テクノロジーがスケール化し、価格も下がっていくことで一般に広がっていくステージです。携帯電話はかつて、分厚い辞書のような大きさで、ごく一部の富裕層しか手に入れることができませんでした。今日ではほとんどの人が所有しており、スマホのない地域を探す方が難しくなっています。

 

テクノロジーの大衆化までのプロセスを考えてみると、現在どのようなテクノロジーがどのステージにあり、今後どうなっていくのかを予測することもできるようになります。止めることのできない進化の流れの波に乗り、遅れをとらない程度に自分自身もアップデートしていきましょう。

#96 ムーアの法則を越えるもの

これまでのテクノロジーの進歩は、60年以上にわたって続くコンピュータの性能向上というムーアの法則に則っています。この法則の指標となるのかトランジスタ性能の向上であり、FLOPS(1秒当たりの浮動小数点演算命令実行回数)という単位で表されます。

 

1956年当時の処理能力は1万FLOPSでした。それが2015年には1,000兆FLOPSになったのです。この飛躍的な性能向上がテクノロジー進歩の最大の推進力となりました。

 

しかしここ数年、ムーアの法則は物理的な原因によりスピードが鈍化しています。集積回路の性能向上はトランジスタ同士の物理的間隔を狭め、チップ1枚あたりに搭載する回路数を増やすことによって実現してきました。

 

1971年にはチャネル長(トランジスタ間の距離)は1万ナノメートル(1mの10億分の1)、2000年には約100ナノメートル(1mの1000憶分の1)に、今日では5ナノメートルに近付きつつあります。それこそが物理的限界を示唆しているのです。

 

これほど微細になると、回路間で電子が飛び移るようになってしまい、演算能力が阻害されてしまいます。これがトランジスタの数を増やす物理的な制約となり、ムーアの法則が終わりを迎えると囁かれているのです。

 

しかし、ひとつのテクノロジーが有用性の終焉を迎えるたびに、それに代わるものが生まれてくるというのがレイ・カーツワイル野提唱した「収穫加速の法則」です。トランジスタも同様であり、ムーアの法則の終わりを克服する方法が検討されているのです。

 

例えば、原材料のシリコンをカーボン・ナノチューブに置き換え、スイッチングの速度と放熱を改善するというもの。集積回路を3次元にすることで幾何学的に表面積を増やすというもの。アップルが発表した「A12バイオニック」は、機能を絞り込むことで1秒間に9兆回の演算能力を持つ特定用途向けのチップを実現しました。

 

しかし、どの方法も量子コンピューティングと比較すれば霞んでしまいます。2002年、初期の量子コンピュータ会社の創業者が提唱した「ローズの法則」はムーアの法則の量子版と言えるもので、その内容は似ています。量子コンピュータの量子ビット数は1年毎に倍増していくというもの。スーパーポジションの量子ビットの性能は、トランジスタのバイナリビットとは比較になりません。

 

50量子ビットのコンピュータは、16ペタバイト(1テラバイトの1000倍)のメモリを持ち、約5,000万曲を保存できます。これをわずか30量子ビット増やすだけで、次元の違う話になるのです。宇宙のすべての原子が1ビットの情報を保持すると仮定した場合、80量子ビットのコンピュータは宇宙にあるすべての原子情報を上回るだけ保存能力を持つことになります。

 

化学と物理学は量子プロセスであるため、これらが実現すれば新たな材料・化学物質・医薬品発見の黄金時代が到来するとも指摘されています。量子コンピューティングによって研究開発のプロセスが一変し、新たな治療薬の開発にしても、大規模な研究所を建てて、試験管の中で何十万種類もの化合物の性質を調べるかわりに、そのほとんどをコンピュータで済ませることができるようになります。

 

つまり、新しい発想から新しい薬までの距離が一気に縮まることを意味しているのです。ムーアの法則は分野を超え、名前を変えても生き続けていくのかもしれません。

#95  量子コンピューティング

宇宙一寒い場所がアメリカのカリフォルニア州にあります。郊外の巨大倉庫のなかに造られた大きな白いパイプは人工的に造られた超低温冷却装置であり、温度は絶対零度(-273.15℃)をわずかに上回る程度といいます。量子をスーパーポジションの状態にとどめるには、これほどの低温状態が必要になるのです。

 

従来のコンピュータの「ビット」は「1」か「0」のバイナリ情報で処理されています。量子ビットはこの概念の進化系になります。量子ビットはスーパーポジション(重ね合わせ)の状態を意味しており、コイン投げをしたときに表と裏が同時に見えている状態を想像してください。「1」でもあり、「0」でもある状態といえば分かり易いでしょうか、量子でその状態を実現するためには超低温状態が必要になるということです。

 

スーパーポジションはコンピュータの演算能力に直結しており、従来のコンピュータが数千ステップを要する計算であっても、量子コンピュータであれば数ステップで処理してしまいます。かつて、チェスの王者を破ったIBMのスーパーコンピュータ「ディープブルー」は、1秒間で2億手を検討しました。一方、カリフォルニア州にある大きな白いパイプ(量子コンピュータ)であれば1秒間に1兆手を検討できるのです。

 

現在、「量子の覇権」争いに名乗りをあげているのは、グーグル・IBM・マイクロソフト等の大手ハイテク企業、一流大学や政府機関、そしてこの白いパイプを所有するリゲッティ・コンピューティング社です。

 

物理学者のチャド・リゲッティは、量子コンピュータは多くの人が考えているよりも現実味を帯びており、自分の手で達成したいと思ったことが切掛けでIBMの研究者としてのキャリアを捨て、宇宙一冷たいパイプを造ったそうです。すでに50以上の特許を申請し、現在クラウド上の量子コンピュータを動かすための集積量子回路の製造を行っています。

 

次世代コンピュータとして期待の大きい量子コンピューティング技術は、様々な問題の解決に役立つことが見込まれており、ハイテク企業がこぞって研究開発費を投じることで着々と実現に近付いているのです。

#94 激変する世界

新たなテクノロジーが生まれるたび、そこにはインターネットの登場と同規模の「機会」があると言えます。インターネットが、音楽・メディア・小売業・旅行・タクシーなど多くの産業を破壊してきたと思われがちですが、あるリサーチ会社の研究ではインターネットにより失われた雇用を1とした場合、新たに生み出された雇用は2.6になると明らかになりました。

 

これからの10年、同じような「機会」があらゆる産業・分野で生まれるでしょう。これまで、起業家にとってこれほど恵まれた環境はなかったとも言えます。クラウドファンディング等により、立ち上げの過程にあるプロジェクトが資金を調達するまでにかかる時間は数年から数分に縮まりました。

 

ユニコーン(評価額が1,000億円以上、設立10年以内の非上場ベンチャー企業)が誕生するまでの期間も、かつては20年かかっていたものが、今ではたった1年で到達するケースもあります。

 

反対に、既存の大手企業や政府機関は旧態依然であり、急速かつ劇的な変化に耐えられるようにつくられていないため、フォーチュン500企業の(全米上位500社)の40%が聞いたこともないベンチャー企業に取って代わられ、10年以内に消滅すると予測されています。

 

つまり、指数関数的な成長曲線をたどっているこれからの時代に適応できるだけの機敏さを持つことが、国や企業、個人にとっても重要になっているということになります。正しい情報の取捨選択により、これからの未来をより豊かに、より快適に過ごすために何をすべきか、私たちは待ったなしの選択を迫られているのかもしれません。

#93 直線的変化時代の終焉

新しいテクノロジーが生まれることにより、私たちの過ごしてきた時代は緩やかに変貌を遂げ、意識しないうちにより便利に、より快適になりました。

 

遠い祖先が今日を生きるために狩猟・採集を生業とし、植物の繊維や動物の皮や骨を道具として使っていた段階から、次のステップである「家畜化」に移行するまで1,000年以上を要したと言われます。その後、電気が発明され、日用品が大量生産されるようになるまで、さらに数千年がかかりました。

 

現在の私たちが目の当たりにしている指数関数的な時代の変化は、あるひとつの分野における技術革新でさえ早すぎてボヤけてしまっているのです。その変化が分野を超えて融合し、臨界点を突破しようとしている。それこそが私たちにとって厄介なもの、手に負えないものになろうとしています。

 

人間の脳は極めてローカルで、一日数万歩で行き来できる圏内の環境で進化を遂げてきました。私たちの祖父や曽祖父世代の生活は、両親の世代のそれに比べても、さほど大きな変化ではありません。

 

しかし、いま私たちが生きている世界はグローバルで、変化の速度がケタ違いなものになっています。地球の裏側で起きたことも、数秒後には情報として伝わります。

 

世代ごとに生活が変わるどころか、ほんの数ヶ月で革命的な変化が起こり得る時代です。しかし、私たちのハードウェアとも呼べる「脳」は、20万年前からアップデートされていないと言われています。つまり、これほどのスケールで変化が起きた場合、そのスピードに適応できないのです。

 

個別の革新的な進歩についていくことさえ難しいのに、複数が融合したらもはやお手上げです。これからの100年間において、私たちは農業の誕生からインターネットの誕生までの歴史を2度繰り返すほどの急速な変化を経験すると試算されます。

 

現在の日常や、価値観を一変させてしまうほどの革新が次から次へと誕生しています。「空飛ぶ車」も理想ではなくすでに現実のものであり、これからの「変化」の入り口に過ぎないのです。

#92 空飛ぶ車×テクノロジー

前回に引き続き、空飛ぶ車を実現するための3つのテクノロジーについて取り上げてみたいと思います。

 

まずひとつめが、複雑なフライト趣味レーションを行うために重要な機械学習の進歩。二つめは、飛行できるほど軽量かつ耐久性のある安全な部品を造るためのマテリアル科学の進歩。最後が、あらゆるサイズのモーターやローターをデザインするための新たな製造技術である3Dプリンティングになります。

 

機能性の面では、ガソリンエンジンの熱効率が28%であるのに対し、この電気エンジンは理論上95%です。しかし、DPEシステムを実際に飛ばすとなるとまた話が変わってきます。複数のモーターをマイクロ秒単位で調整するのは、人間のパイロット能力を超えてしまうので、完全コンピュータ制御が必要となるのです。

 

それだけの制御を実現するためには、またいくつかのテクノロジーの融合が不可欠です。

第一に、AI革命により膨大なフライトデータを取り込み、マイクロ秒単位でそれを理解させ、多数の電気モーターと航空機の制御をリアルタイムに連携させるだけのコンピュータ処理能力が生まれました。

 

第二に、膨大なデータを取り込むために、パイロットの目や耳に代えてギガビット単位の情報を同時に処理できるセンサーが必要になります。GPS・LIDAR(レーザーを使った強度方向探知と測距)・高度な視覚映像化技術・超小型加速度計など。しかし、その多くはここ10年間にわたるスマホの開発競争により既に実現しているのです。

 

最も重要なのが電池です。空中を走行途中に電源を喪失してしまうことほど大きな不安はありません。その不安を解消させるためには、十分な持続時間・操縦者と乗客4人を持ち上げるだけの電力密度が必要であり、最近まではおおよそ不可能とされてきました。

 

しかし、太陽光発電と電気自動車の爆発的な普及に伴い、現在では優れた蓄電システムへの移行が進むことで、空飛ぶ車を浮揚させるだけの電力密度を併せ持つ次世代のリチウムイオン電池が誕生しつつあります。ここまでで「安全性」と「騒音」は克服できます。

 

あとは「価格」の問題です。空飛ぶ車を富裕層だけのぜいたく品ではなく、万人が利用できるものにするためには、更に三つのテクノロジー融合が必要になってきます。まずコンピュータを使った設計やシミュレーションに商業用飛行に必要不可欠な、空気抵抗を低減するエアロフォイルや翼、胴体を設計できるだけの性能を持たせること。

 

同時に、マテリアル科学の分野では軽量でありながら安全性を担保できる耐久性を持った炭素繊維複合材や金属合金を生み出さなければなりません。そして、3Dプリンターを高速化し、こうした新たな材料から部品を造り出す必要があるのです。しかし、それも今まさに、実現しているのです。

#91 スマートシティ – Society5.0

スマートシティは、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける持続可能な都市や地域であり、Society5.0の先行的な実現の場と定義されています。

 

スマートシティに関しても、内閣府ホームページに「スマートシティガイドブック」として掲載されていますので、興味のある方はご覧になってください。

 

さて、本日は「空飛ぶ車」について。宙に浮いた車が街を走っている姿といえば、私と同年代の方であればアニメ「ドラゴンボール」のカプセルコーポレーションを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。あれから35年以上を経て、そんな街が実現していると思うとワクワクしますね。

 

空飛ぶ車の課題として、「安全性」「騒音」「価格」の問題があります。世界初のヘリコプターが登場したのが1939年、それから80年以上が経ちますが、この3つの課題を満たしているとは言い難い状況にあります。

 

危険なのは、浮揚するために単一の巨大なローターを高速回転させるため、ひとたびローターが停止すれば制御不能となります。また、100dBを超える「バラバラバラ」という耳障りな音が生じます。

 

では、機体に大きなローターをひとつ付ける代わりに、小さなローターを複数使ったらどうでしょうか。ドローンを想像した方も多いでしょう。そうすれば騒音はかなり抑えられますし、複数のローターを使えばそのひとつやふたつが同時に停止したとしても安全に着陸することができます。そこに時速200キロ以上出せる翼を取り付ければ実現できそうですが、ガソリンエンジンでは出力重量比の問題で実現できないようです。

 

ここでロボット工学者が開発し登場したのが新しいタイプの電磁モーター、「DPE:分散型電気推進力」と呼ばれるものがあります。きわめて軽量で誰にも気づかれないほど静音で、重量物も運搬可能です。このモーターを設計するために技術者たちが頼ったのが3つのテクノロジーです。

 

次回は、その3つのテクノロジーについて取り上げてみたいと思います。

#90  想像を超えて加速する未来に備える

私たちが経験するであろう、2030年の近未来。テクノロジーの進歩により既に実現し、近い将来あたり前になるかもしれない新しい日常について綴っていきたいと思います。

 

まだ少し先の話になりますが、日本の内閣府が掲げている2050年を目標としたムーンショット。

絵空事ではなく、世界中の政府機関・先端技術者が協力し、真顔で実現しようとしている取り組みで、内閣府ホームページにも掲載されており、進捗は随時アップデートされています。

 

■ムーンショット = 非常に困難で独創的だが、実現すれば大きなインパクトをもたらす壮大な計画や試みの意

 

陰謀論者による否定的な意見や拒絶反応もありますが、日本だけでなく世界が向かおうとしている今後の方向性を正しく理解しないことは投資の面においても大きな機会損失となります。分野を超えてテクノロジーが融合し、指数関数的に進化が加速しています。サイエンスフィクションはもう既にフィクションではなく、サイエンスファクトになっているのです。

 

「ムーアの法則」を聞いたことがあるでしょうか。1965年、インテル創業者であるゴードン・ムーアが提唱したもので、集積回路上のトランジスタ数が18ヶ月ごとに倍増していくという法則です。コンピュータのコストはそれほど変わらずとも、性能は1年半ごとに倍増していくというものです。

 

驚くべきことに、この法則は現在も活きており、分野を超えて加速しているとも言えるのです。私たちのポケットに入っているスマートフォンは1970年代のスーパーコンピュータと比べると大きさは1万分の1、価格は1,000分の1、性能は100万倍になっているのです。

 

2023年には現在の相場である10万円程度のノートパソコンが人間の脳と同レベルの能力を持つと言われています。更に、2050年までには地球上の全人類の脳を合わせたのと同じ能力を持つようになります。

 

つまり、新しいコンピュータを使って更に高速なコンピュータを開発することにより、正のフィードバックループが生まれ、加速のペースが一段と加速するということです。私たちの日常を劇的に変えようとしている強力な技術やイノベーションが、ブロックチェーン技術・量子コンピュータ・AI(人工知能)・ナノテクノロジー・バイオ科学・マテリアル科学・センサー・3Dプリンティング技術・AR(拡張技術)・VR(仮想現実)などです。

 

ひとつひとつを見れば、それは旧聞に属するのですが、これまでバラバラに存在していたテクノロジーが融合しつつあるという現実が注目すべきことなのです。相性の良いテクノロジーの融合は新たな市場と雇用を生み出し、既存の市場を消滅させるほどのインパクトを与えます。

 

Amazonはこれまでに無かった新しいビジネスを開発し、拡大してきたのでしょうか。いえ、従来のカタログ(紙媒体)による「通信販売」というビジネスモデルを、インターネットという新しいテクノロジーを活用することでテコ入れし、一大経済圏を確立しました。GoogleもTwitterもFacebookも、もともとあった技術をいち早くテクノロジーの融合によりネットワーク化することで既存のビジネスモデルを刷新し、拡大しました。

 

Facebookが社名をMeta(メタ)に変更したことも、これから先、同社はメタバース(AR・VR)を軸として事業を拡大していくこと宣言しているとも捉えられます。見方を変えれば、今後どういった企業・分野・テクノロジーに投資すべきかという点でも、ひとつのヒントになるかもしれません。

 

「失われる雇用 < 新たに創出される雇用」の関係はインターネットの誕生が証明しています。

これまでに無かった新しいテクノロジーの登場と浸透速度の速さに慌てることなく、おびやかされることなく、柔軟に泳いでいきましょう。